上田市の民話と伝説 丸子 猫石
むかしむかし、戸隠山の鬼女退治で名を馳せた平維盛が、
軍を率いて丸子の地にやってきたそうな。
そのとき千曲川にさしかかったが、
橋は流され、川は濁流で渦を巻き、
とても渡れそうにない。
馬上の維盛は困り果て、川岸で足を止めていた。
すると、どこからともなく猫が現れ、
そばの岸からザブンと川へ飛び込んだ。
「ややっ」と驚く維盛の目の前で、
猫は川の真ん中の大岩にとりつくと、
ぶるっと体をふるわせ、こちらを見つめた。
それからまた泳ぎ出し、向こう岸へ渡りきると、
ふっと姿を消してしまったという。
「これは神の使いだ。この道を行けということだな」
と悟った維盛は、
猫の通ったあとをたどって川を渡った。
すると不思議なことに、激しい流れにも巻き込まれず、
無事に渡りきることができた。
それからというもの、猫がとりついたその大岩は、
里の人々に「猫石」と呼ばれ、大切にされているそうな。