下諏訪町の民話と伝説 承知橋
武田信玄が川中島の合戦に向かう途中
下諏訪の入り口、久保村にさしかかると、
ちょうどそこに橋がかかっていた。
信玄が馬にまたがったまま渡ろうと、
ひとりの神主がかけつけてきて、
「信玄さま、この橋からは諏訪明神様のお住まいになります。
馬に乗ったままでは困ります。歩いてお通り下さい」
と言う。
信玄はむっとして、
「なんだと、このおれに馬から降りよと言うのか、
おれは信玄だぞ」
と言って、そのまま橋を渡った。
ところが、半分ほどか進んだとき、
急に馬がぐらっと揺れて、信玄は落馬してしまった。
家来たちがかけよって抱き起こし、馬に乗せたが、
馬は足がふらつき、信玄はまた落馬した。
これを見た家来たちには、
「このたびの戦に負けるもしれない」
という不安が起こった。
「殿、やはり明神様のお怒りに触れたようです。」
このままではわれわれの士気もぶりましょうから、
歩いて渡りましょう。」
重臣のひとりが、
信玄の耳元でささやくと、
さすがの信玄も心を変えて、
「承知した。歩いて渡ることにしよう」
と言い、家来たちにも馬から降りるように命じた。
このときからその橋を、
信玄が歩いて渡ることを承知したいといことから、
「承知橋」、
その下を流れる川を「承知川」と呼ぶようになった。
信州の民話伝説集成 より一部抜粋