富士見町の民話と伝説 彦爺と白蛇
むかしむかし、富士見の花場というところに、
彦爺という山菜採りの名人が住んでおった。
ある秋の日のことじゃ。酒屋の主人が彦爺の元へやってきて、
こう言った。
「酒を造りたいので、袋いっぱいの山ぶどうを採ってきてくれんかのう?」
しかし、彦爺はこれまでに沢山の山ぶどうを見たことがなかったので、
どうしたものかと考えた。
だが、日頃から世話になっている酒屋の主人の頼みを断ることはできなかった。
そこで、彦爺は覚悟を決めて山に向かったのじゃ。
けれども、半日も歩き続けたというのに、
籠の中はまだ山ぶどうでいっぱいにならなかった。
彦爺が歩き疲れて、大きな岩に腰を下ろし一休みしておったところ、
ふと見ると、そこには一匹の白蛇が岩に挟まれてもがいておった。
「おお、これは気の毒な。白蛇は神の使いじゃ。助けてやらねばなるまい。」
そう言って、彦爺は岩をこじ開けて白蛇を逃がしてやったのじゃ。
その後、再び山道を歩いておると、
さっき助けた白蛇が彦爺の足元にまとわりついてきた。
ふとした拍子に彦爺はつまずき、
道を外れて谷へ転がり落ちてしまった。
しかし、幸いにも途中で太い木の蔓に引っかかり、
転がり落ちずに済んだのじゃ。
見上げてみると、その木には一面に房を付けた山ぶどうが、
まるで空を覆うかのごとく、たわわに実っておった。
「おお、これは何ということじゃ。あの白蛇のおかげに違いない。山の神様のご加護じゃ。」
そうして、彦爺は袋いっぱいの山ぶどうを採り、
無事に酒屋の主人に届けることができたそうな。