上田市の民話と伝説 唐猫伝説
おおむかしはな、
佐久と小県地方一帯は大きな湖だったとさ。
その湖の北は作物がよく実る陸地だったと。
その陸地と湖をさえぎっていたのが、
半過の帯のような長い岩だったというわけさ。
さて、この北側にの田畑を耕していた人々に困った
ことが起きてしまった。
というのは、
一匹の大鼠が実ったばかりの作物を荒らし回るようになり、
みんな、ほとほと嘆く日々が続いていたと。
そこでとうとう村々の長老たちが相談したあげく、
まとまった話というのが、
「唐猫を見つけてきて、おっぱなしてやるに限る」
といったものだ。
唐猫というのは、
そりゃあ大きな化け猫みたいなヤツでの、
これならば、
荒らし回っている鼠どもなど。
かないっこないってわけだ。
やがて唐猫探しに遠くまで出かけ、
ついに見つけて帰ってきたというわけじゃな。
そしてその大猫をおっぱなしてやったところ、
さあ、
鼠どもはおおあわてで逃げ初めての、
はじめはぐるぐる野を回っているに過ぎなかったが、
最後は逃げ場所が尽きてしまってな、
湖の淵の岩をみんなガリガリかじり出した。
そのうちに、
とうとう湖をさえぎっていた岩がかじりとられ、
その間から水がだーっと陸地に向かって流れ出してきてと。
それがまた大洪水のようになって押し出してきたものだから、
鼠どもは流され、
唐猫までもが一緒に流されてしもうた。
その大猫が死んで陸地にあげられ、
祀られたのが長野市篠ノ井の唐猫神社だという話。
また、
鼠たちがかじった岩のあとが今でも、
半過の岩鼻となって残っているわけさね。
信州の民話伝説集成 より