東御市の民話と伝説 雷電の力持ち
むかしむかし、信州は東御の大石というところに、
太郎吉という力持ちの子どもがおったそうな。
この太郎吉、のちに大相撲で「雷電爲右エ門」と呼ばれる、
そりゃあもう天下一の力士になるんじゃが――
この話は、まだ太郎吉がほんのわらしの頃のことじゃ。
ある日、太郎吉はおっかあといっしょに、
新屋の実家へ行くことになった。
親戚たちは「よう来たよう来た」と迎えてくれて、
庭の柿の木の下に、特別に庭風呂をこしらえてくれたそうな。
おっかあが先に湯へつかり、「ああ、気持ちいいねえ」と、
ほっこりしたところ……
にわかに空がかき曇り、ゴロゴロゴロと雷が鳴りだした。
やがて、大粒の雨がバラバラと降ってきて、
あっという間に土砂降りに。
そのときじゃ。
まだ幼い太郎吉、なんと、おっかあが入っておる風呂桶を、
まるごと背中にひょいと担ぎ上げ、
ずしりともせず、そのまま家の土間まで運んでしまったんだと。
村のもんは口をあんぐり。
「さすがは太郎吉、ただ者じゃねえ」と、そりゃあ大そう驚いたということじゃ。
やがて太郎吉は、天下に名をとどろかす力士「雷電爲右エ門」となり、
その武勇は、今でも語り継がれておるんだとさ。